2007/11/3 土曜日

こうした管理が革新や経済発展を阻害する

Filed under: 引用 — nomad @ 15:39:55

マルチチュード 下 ~<帝国>時代の戦争と民主主義 (NHKブックス)二つ目の例は、破壊的な影響力をもつ政治的・経済的管理の形態を廃止するという提案だ。たとえばサイバネティクスやインターネットの領域では先に見たとおり、著作権という形でのアクセスや情報、アイディアに対する管理が日増しに創造力や革新を阻害している。またたびたび指摘したように、医療品や知識、遺伝物質、さらには生命 – 形態にいたる多種多様なものを管理する特許についての異議申し立ては、今や無数に存在する。

これらの問題を解決または緩和するための提言は少なくない。穏健な提言のひとつには、著作権による管理の拡大に歯止めをかけるために保護機関の短縮を求めるというものがある。著作権はもともと著作者に一定期間の独占権を認めることによって、革新を奨励する手段として考案された。ところが今や、いったん取得した著作権は著作者の側がほとんど何もしなくても一五〇年以上継続し、共通のパブリックドメインでの私用は制限されてしまう。この状況を改善するためには著作権期間を短縮し、著作者がなんらかの行動を起こさなければ定期的に著作権を更新できないようにするという単純な方法もある。1 より一般的には、著作権保護の適用を商業目的に限り、商業的利益の発生しない文章や音楽のコピーは自由化するという方法もあるだろう。2 同時に、特許が取得できる商品の種類を減らし、たとえば生命 – 形態や伝統的知識は除外するという方法も考えられる。これらは既存の法的枠組みに無理なく合致するきわめて穏健な提言である。

一方、ソフトウェアを無償で公開し、誰でも自由に改良できるようにすることを目指すオープンソース運動のようなラディカルな例もある。3 この運動の支持者によれば、企業が所有する私有財としてのソースコードを公開していないため、ユーザーはそのソフトの仕組みがわからないだけでなく、その問題点のありかをつきとめたり改良したりすることもできない。ソフトウェアのコードは常に協同プロジェクトの産物であり、それを見て改変する人が多ければ多いほどそのソフトの質は向上する。

特許や著作権に対する法的保護を一切なくし、アイデアや音楽、文章をすべての人が自由に使用できるようにすることも当然考えられる。その場合、著作者やアーティスト、科学者の創造性に対して報酬を与える別の社会的メカニズムを考えなければならないが、収入の大きさに比例して創造性が高まると考える理由はどこにもない。そればかりか著作者やアーティスト、科学者は自分の創造性によって企業が大金を得ることに憤りを表明することも多く、彼ら自身は途轍もない富を獲得するために創造的行為に打ち込むわけではないのが通例である。いずれにせよ、これらの提言が特許や著作権などを媒介にした政治的・経済的管理の緩和を主張するのは、ただ単にそれらの商品へのアクセス制限が不当だからというだけではなく、こうした管理が革新や経済発展を阻害するからでもあることは明らかにしておかねばならない。

実際、もっとも革新的で強力な改革プロジェクトとして、現行の著作権制度に代わる代替案を提唱するものもいくつかある。なかでも先進的なのは「クリエイティブ・コモンズ」と呼ばれるプロジェクトで、これは著作物を誰でも自由に共有できる一方、アーティストや著作者には自分の作品に対する一定のコントロールを維持できるようにするというものだ。クリエイティブ・コモンズに文章やイメージ、オーディオ、ビデオなどの創作物を登録すると、その作品の使用に関して最小限の制限をどのように加えるかを選択できる。具体的には、作品の複製にあたって原作者の表示をするかどうか、営利目的での使用を許可するかどうか、作品を改変して派生作品を作ることを許可するかどうか、作品のいかなる使用についても複製に関して同じくオープンであることを求めるかどうかの四つについてである。4 このオルタナティブは現行の著作権法による制約を望まない人々を満足させるだけの単なる補完物でしかないという見方もあるかもしれないが、実際には改革を促進する強力な媒介物となるものだ。この代替案は特許制度の不適切さを浮き彫りにし、変化の必要性を如実に物語っている。

アントニオ・ネグリ マイケル・ハート『マルチチュード(下 )<帝国>時代の戦争と民主主義』 NHKブックス 2005年

  1. ローレンス・レッシングはThe Furure of Ideas, pp. 249─261〔ローレンス・レッシング/山形浩生訳『コモンズ』翔泳社、2002 年〕で同様の勧告を行っている。 []
  2. Jessica Litman, “War Stories,” Cardozo Arts and Entertaiment Law Hournal 20(2002): pp. 337─359 を参照 []
  3. Rechard Stallman, Free Software, Free Society〔リチャード・ストールマン『フリーソフトウェアと自由な社会』を参照 []
  4. これと類似した著作権制度の代替案に「コピーレフト」がある。この場合、選択肢はひとつだけで、作品は著作者の名前を表示することを条件に非営利目的で複製することができる。クリエイティブ・コモンズに関しては、Lawrence Lessig, Free Culture(New York : Penguin, 2004)ローレンス・レッシング/山形浩生、森岡桜訳『Free Culture』翔泳社、2004 年〕を参照。また同組織のウェブサイトも参照。www.creativecommons.org. []

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